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西上泊: 8時間コース断念
元来「8時間コース」はトレッキングコースとして整備されたわけではなく、礼文島西海岸を歩く人が拓いた道を私達が歩いているだけなのである。そのため、危険な箇所が多くところどころで海岸線を歩くところがある。
だが、海岸のすぐそばが断崖絶壁であったりするため高波とかがあれば逃げ場がない。そのため雨が降っていなくても波が高ければそれだけで中止せざるを得ない条件が整ったことになる。今回はそういうパターンだった。
【左】 澄海岬
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それにしても、私も過去7回歩いたことがあるがこんなケースに遭遇したのは初めてである。私みたいなのはどうでもいいとして、初めて歩いた人なんかは悔やんでも悔やみきれないのではないだろうか。礼文までの交通賃と無理に取った休暇、一般の人ならあと何回この島を訪れることができるかわかったものじゃない。
初めて歩いた人のうちのある人が言った。『「これはもう一回礼文に来なさい」って神様が言っているんだと思う。だから来年もう一度歩きたい。』、私はその人の前向きな思考にいたく感動した。
【右」 澄海岬からみた礼文島西海岸の海岸線
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西上泊から「4時間コース」のルートを辿ることにした。ここから先はトレッキングコースではなくなり、ごく普通のアスファルトの道である。先ほどユースホステルからスコトン岬までマイクロバスで来た道の途中にある浜中という集落まで歩き、11時37分の路線バスで香深フェリーターミナルまで戻ってくるということになる。
とりあえず小腹が空いたので、西上泊にある売店で売っていた「たこざんぎ」を一つ買った。このあたりはウニや昆布が有名だが、意外と蛸もよく取れるという。「ざんぎ」というのは北海道のほうにしかないのだが、本州で言うところの「唐揚げ」である。北海道の「ざんぎ」はもちろん本州と同じく鶏肉だが、ここの売店の「ざんぎ」はたこだ。これがまた塩味が利いて美味しかった。思わずビールが欲しくなる一品だ。
おなかも少し満足したところで、バス停まで歩きはじめた。
【左】 これが「たこざんぎ」。礼文の名物になるか?
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西上泊〜浜中: レブンアツモリソウ群生地
西上泊から浜中まではおよそ3km、歩いて40分ほどの道のりである。
パックツアーの観光バスは必ず澄海岬をとおるので西上泊へ向かう道はとてもきれいに整備されている。滅多に人なんか歩かないだろうところにも広い歩道がある。そのような道をとぼとぼ歩いていると、物々しい柵で囲まれた丘を発見、なんでも「レブンアツモリソウ群生地」ということだが、残念ながら花は6月が見頃で8月の今は花はない。この群生地周辺は保護活動にかなり力を入れているらしく、周囲の数箇所に監視カメラ、そして監視小屋まであった。聞くところによると、盗掘が後を絶たないらしい。大事な花だ、礼文島は国立公園内にあるので草木を採ることは無論処罰の対象だ。心しておきたい。
【右】 これがレブンアツモリソウ群生地、柵と監視カメラが盗掘防止に役立つ
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浜中: バス停が見えてきた
西上泊から歩くこと40分、やっとバス道に出てきた。ここからバスに乗って香深フェリーターミナルにむかうことになる。とりあえずみんなでお疲れ様と健闘を讃えながら、バスを待つことにした。
その中の一人先程穴あき貝の砂浜で海に入水していたL氏が「2km先のたい焼き屋まで歩く」と言い出した。実はこのたい焼き屋、私も以前から行ってみたいと思っていたのだが、なかなか機会に恵まれなかった。渡りに船とL氏と一緒に早歩きをしながらそのたい焼き屋に向かうことにした。
【左】 つきあたりがバス停、あと一息
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閑話休題: 船泊「ファミリーマート よこの」
おそらく「日本最北端のたい焼き屋」だと思う。あと世界にたい焼きなんてたぶんないと思うので「世界最北端」と称してもいいかもしれないが、残念ながら確証が持てないので「日本最北端」にしておく。
地理的には礼文島第二の都市いや集落になる船泊にある。この集落の「よこの商店」というお店がたい焼きを作っている。
【左】 ファミリーマートってあのコンビニではないです。
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たい焼きはつぶあんとカスタードクリームの2種類、いずれも100円(税込)である。店のおじさんは手際よくたい焼きを袋に包んでくれた。まず目を惹いたのは包み紙である。口上が面白い。
- 当店のたい焼きは魚屋では売っていません
- 最上の小豆・はちみつ・玉子・砂糖より誕生します
- たい焼きの大きさは親・子・オス・メスとも約14センチです。
- おかしらからしっぽまであんこがいっぱい、骨はありません。
- 海では取れません
そりゃそうだ、と笑っているとバスが程なくしてやってきた。
【右】 これがその包み紙、とても片手間でやっている雰囲気じゃない。本格的だ。
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バスに乗り込んでたい焼きを食べることにした。確かにあんこがおかしらからしっぽまで詰まっていた。生地に蜂蜜を入れているということだったせいか、生地もほんのりと甘く餡やクリームを邪魔しない味わいだった。
L氏は先ほどたい焼きを大量に買い込んでたので何事かと思っていたら、今日歩いたみんなにおすそ分けしていた。彼の心配りに感心すると同時に、そういうことに気が回らなかった自分に少し自己嫌悪してしまった。
たい焼きの包み紙がバスの中でも好評で、みんなこれを読んでは笑っていた。香深までの1時間のバス旅もあっという間だった。
【左】 たい焼きを食べました。皆さんはどちらから食べます?私はしっぽからです。
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昼下がりの香深港フェリーターミナル
12時半過ぎにバスはフェリーターミナルに着いた。
とりあえずここで今日のフェリーで稚内・利尻方面に向かうメンバーもいるので解散式みたいなのをやって一旦解散した。今日も桃岩荘に泊まるメンバーは13時05分発の稚内行フェリーと13時45分発の利尻・鴛泊行フェリーの見送りだけはすることで一旦解散となった。
昼間に香深のフェリーターミナルにいることは普段であればあまり考えられるケースでなく、とても新鮮だった。静かな昼下がりのフェリーターミナル、桃岩荘の関係者宿泊者がごろごろいるのは一種異様だといえよう。桃岩荘のヘルパーも「こんだけ昼間に人数がいると、見送りするほうも盛り上がりますね」と話していた。とりあえず桃岩荘の激しいお見送りを2回もしてしまった。
【右】 昼下がりのフェリーターミナルで一緒に歩いた仲間を見送る
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昼御飯: 桃岩荘名物「圧縮弁当」
せっかく「8時間コース」の用意をしているので弁当を食べようということでフェリーターミナルで車座になって食べた。
桃岩荘の名物の一つにこの「圧縮弁当」がある。「8時間コース」を歩くとこの何の変哲もない弁当がものすごく美味しく感じられる。中身はただぎゅうぎゅうに圧縮した御飯に海苔やちりめんや昆布の佃煮などをのせただけなのにである。
おそらく礼文のすばらしい自然と、そこで出会った仲間がいいスパイスになっていると私は勝手に思い込んでいる。
【左】 何の変哲もない弁当で感動することが貴方にはできますか?
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香深: 「4時間コース」後半戦?
香深のフェリーターミナルで昼御飯を食べた後どうするか話し合っていたところ、とりあえず歩けるところを巡ってみようということで桃岩展望台と、レブンウスユキソウ群生地へ行ってみることにした。
「8時間コース」に行く予定だった8人とフェリーターミナルで合流した3人の合計11名で再びチームを作って香深を出発した。
【左】 O氏のお子さんのゆうや君、やる気のない割にやんちゃである
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桃岩展望台: 奇岩に胸躍らせる
香深から合流したうちの二人は今日1泊だけしか礼文島に滞在しないということだった。これも何かの縁だろう、俄かのチームが香深からずんずん登っていく。
桃岩展望台は礼文島三大奇岩のうちの「桃岩」と「猫岩」を眺めることができる展望台である。三大奇岩のあと一つは「地蔵岩」であるが、残念ながら桃岩に隠れて展望台からみることはできない。それでも本当に桃の形をした岩を眺め、遠くにユースホステルを望みさらにその先に猫岩がある。人工物のような配置なのにこれが自然のものだから、自然とは偉大である。
【右】 天気が少し回復した礼文島。桃岩の先に霞んだ猫岩が幻想的だ
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礼文林道: 丘の上を歩くハイキングコース
本来なら「8時間コース」の最後の難関であるはずの礼文林道。なぜ難関かといえば、これまでさんざん歩いたにもかかわらず8kmだらだらとしたダートのコース、極めつけは林道の大半が熊笹に覆われて視界があまりよくない。結局は黙々と歩かないといけない、私も数度となく歩いたがここが一番きつかったように思う。
今日は反対側からレブンウスユキソウ群生地までの2km歩く。少々端折った感じだが、実はこの2kmが一番見所といえば見所なので、「8時間コース」のおいしいどこ取りみたいになってしまった。
【左】 礼文林道で咲く花達 レブンウスユキソウ以外にもたくさんの花が咲く
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レブンウスユキソウ群生地: 花はなけれど
群生地まで来たものの、残念ながら花のシーズンは既に過ぎておりあたり一面にレブンウスユキソウが咲いているということはない。このレブンウスユキソウ、ヨーロッパのほうで咲く「エーデルワイス」という有名な花の仲間らしく、礼文ではレブンウスユキソウのことをエーデルワイスと紹介しているパンフレットやガイドブックがある。間違いではないが、折角礼文固有種の花には敬意を表しておきたい。
花はシーズンを過ぎたが、レブンウスユキソウは立ったまま枯れるので、ドライフラワー状態になった花を見ることはできる。ま、これで勘弁して…
【右】 柵で保護された歩道の両側でシーズンには白い可憐な花が咲く
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帰還: 歓迎はないけど
後半から歩いたメンバーとも楽しく見所を巡り桃岩荘に戻ってきた。本来なら「8時間コース」でヘルパー達のお迎えがあるのだが、残念ながら「4時間コース」になった私達はお出迎えもなく、ひっそりと帰ってきた。でも最後に記念撮影した顔には、「8時間コース」を歩いたときと同じ、いやそれ以上の明るい笑顔があった。
散々な一日だったけど、一緒に歩いた仲間に感謝。
【左】 玄関前で一日の無事をよろこんで
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